尊厳死宣言公正証書
尊厳死宣言とは
尊厳死とは,普通,ガンなどの回復の見込みがない重篤な疾病のため末期状態にある患者につき,生命維持装置等による延命のためだけの治療を中止し,人間としての尊厳のもと,生に終止符を打つことをいいいます。
現代の医学は患者が生きている限り最後まで治療を施すという考え方のもとに,少しでも長く生を保たせ,最後まで治療を施すための技術を進歩させてきました。
時に奇跡的な回復の例がないわけではありません。しかし,延命治療が結果として患者を苦しめ,安らかな死を迎えることを阻害するだけに終わることが多いのも事実です。
近年,個人の自己決定権を尊重する考え方がいろいろな方面で力を得てきました。
医学の分野においても,治療方針や手術のリスクなどについて十分な情報を提供し,これに基づく患者の選択を重視する考え方が主流となっています。
患者本人としても,少しでも長生きしたいというのは本能ですが,もし自分が回復の見込みがない末期状態に陥ったときには,機械に生かされているような情けない状況を回避したい,また,過剰な末期治療による家族への精神的経済的な負担や公的医療保険などに与える社会的な損失を避けたいという考えを持つ人も増えています。
尊厳死宣言公正証書とは,本人が自らの考えで尊厳死を望み,延命措置を差し控え、中止してもらいたいという考えであることを公証人の面前で宣言し、公証人がこの事実を公正証書として記録するもので,いわゆる事実実験公正証書の一種です。
しかし,治療にあたる医師の立場としては,回復の可能性がゼロかどうか分からない患者の治療をやめてしまうのは医師としての倫理に反すること,どのような形であれ,現に生命を保っている患者に対し,死に直結する措置をとる行為は,殺人罪に問われるおそれがあることなどから,尊厳死宣言公正証書を作成したからといって,必ず尊厳死が実現できるとは限りません。
ただ,尊厳死の普及を目的とする日本尊厳死協会の機関誌「リビング・ウィル」のアンケート結果によれば,「尊厳死の宣言書」を示した場合における医師の尊厳死許容率は,平成15年には95.9パーセント,平成16年では95.8パーセントに達するということです。
公正証書の条項
尊厳死公正証書の標準的な条項は別紙のとおりです。
家族の了解書とそれぞれの印鑑証明書を添付するようにしているのは,あらかじめ家族とよく話し合って,自分が尊厳死を望む意思であることを明確にし,いざそのときになって反対しないよう家族を説得しておく必要があること,家族が了解していることを客観的に明らかにし,医師に安心して延命治療を中止してもらえるようにしておくこと,もしも家族の中に一人でも納得しない者がいるときは,尊厳死宣言公正証書の作成をいったん断念し,説得できるまで待つべきであることを考慮したものです。
家族の了解書の書式です。
印刷してお使いください。
WORD版 単名用 連名用
公正証書作成に必要な書類など
本人の印鑑証明書・実印
出頭者,宣言者が本人であることの確認のためです。
印鑑証明書は公正証書原本に添付して保存します。
家族の了解書
標準条項の第2項に記載した書面です。
署名などの記載は,できるだけ各人の自筆にしてください。
戸籍謄本
家族の確認に使用します。
作成後,お返しします。
公正証書作成手数料
基本手数料は,一律1万1000円です。
公正証書原本の枚数(ページ数)が4枚を超えるときは,1枚当たり250円が加算されます。
病気などで公証役場に出頭できないときは,入院先の病院や療養中のご自宅に公証人が出張して作成します。
このときの基本手数料は1万6500円です。
このほかに,出張の日当1万円(所要時間が2時間を超えるときは2万円),交通費の実費がかかります。
作成された公正証書の原本は公証役場に保管されます。
手元には正本を保管しておくとよいでしょう。
正本の作成手数料は,正本の枚数(ページ数)×250円です。