付言事項記載例 日公連・清水勇夫著「妻のための遺言」講談社刊より
A
(最後に)
私は春子というよき伴侶と3人の素直なよい子供たちに恵まれて,しあわせな人生を送ることができたと心から感謝しています。
春子には2人で築いた住まいの土地と建物を残すことにしました。気兼ねなく,ゆっくりと老後を過ごしてもらいたいためです。
この土地と建物だけで遺産の2分の1をはるかに超えると思いますが,3人の子供たちはお母さんに対して遺留分を請求することのないようにしてください。いずれは3人のものになるのです。
夏男と秋男には大学を卒業するまで父親としてできるかぎりの援助はしたつもりですが,冬子には私の会社が倒産したり,その他いろいろな災難があったりして,大学にも行かせてやれなかったばかりか,私の長患いのために介護の苦労までさせてしまい,申し訳なく,心苦しく思っています。冬子に対して夏男や秋男よりも多くの現金を残してやることにしたのはそういう気持ちからです。みな理解してください。
春子,夏男,秋男そして冬子,よい人生を本当にありがとう。
B
(付言事項)
私は,自分が設立し,経営してきた春秋工業株式会社を長男夏男に継いでもらいたいと切に願い,そのことを中心にこの遺言書を作戒しました。
本文の一で,株式の55パーセントを長男夏男に相続させることにしたのは,夏男に会杜の経営権を与えるためです。議決権の過半数を制する者が会社の経営の実権を握ることになるからです。
専務の山田一郎に5パーセントの株式を遺贈することにしたのは,創業以来長年にわたって会社を支えてきてくれたことに対する感謝の気持ちと,今後も会社のために尽カしてもらいたいと願う気持ちからです。
本文の二で,社屋と敷地を春子と夏男に均等に相続させることにしたのは,会社の安定を図るためです。
不動産は,後々のことを考えると,共有関係にするのは好ましくないのです。できれば夏男一人に相続させようかとも考えたのですが,税金のことを考えて,こういう配分にしました。
本文の三で,会杜に対する貸付金を免除し,いわば借金を棒引きにしたのは,会社の債務を減らし,利息の負担をゼロにして少しでも会社の資産内容をよくしたいと思ったためです。
この免除益は会社の雑収入に計上され,法人税の対象になりますが,会杜の累積赤字はこの程度の債務免除で解消することはないので,決算で黒字が計上されることはありません。しかしその分,1株当たりの資産価値が高くなります。実際にどのような評価額になるかは,顧問税理士の山川三郎先生にきいて,その指導に従って処理してください。
この遺言は,会杜の存続を第一に考えて作成したものです。不満のある者もいるかもしれませんが,会祉存続のため我慢してください。
C
(付言事項)
長男夏男と長女冬子に特に言い残しておきたいことがあります。
2人がまだ幼いころのことです。私はお母さんに家出をされてしまいました。私が毎目朝から晩まで仕事に追われていて夫婦の間に会話がなかったことなど,反省すべき点はいろいろあります。お母さんはある人を好きになってしまい,その人が転勤になると,幼い子供のお前たちを置いて出て行ってしまったのです。
私は仕事とお前たちの世話で心身とも追いつめられてしまい,お母さんには戻ってきてくれるように伺度も連絡しましたが,なしのつぶてで,やがて所在もわからなくなってしまったのです。そんな私を見かねてお前たちの世話をしてくれるようになったのが春子でした。
以来,○○年の歳月が経過しました。
春子は自分の腹を痛めた子供ができるとどうしても我が子のほうに愛情が行ってしまうのが怖いと言って,白分の子供を作ろうとはせず,愛情のすべてをお前たちに傾けて育て上げたのです。
お母さんとは離婚しようと思ったのですが,話し合いをしようにも所在がつかめないので,そのままになってしまいました。
夏男と冬子の2人は春子が穏やかな老後を過ごすことができるよう協力して/ださい。春子には親兄弟もいません。私から受け継いだ財産はお前たち2人に残すと言っています。
以上が私の最後の言葉です。くれぐれも春子を悲しませるようなことだけはしないでください。お願いします。